日本の電機業界の重鎮、パナソニック。かつて日本の家電業界を牽引し、世界的なブランドとして君臨していたパナソニックも激動の時代に直面し、その存在感を失いつつあった時代があります。
そんな中、2012年に社長に就任したのが津賀一宏氏です。彼の革新的な経営手腕と強いリーダーシップは、パナソニックを再び世界の舞台へと押し上げることとなりました。
今回は、津賀一宏氏が巨額の赤字を抱え、迷走を続けるパナソニックをどのように立て直し、再び世界に輝ける企業へと変貌させたのか、津賀氏の経営理念と経営革新の取り組み、そしてリーダーシップスタイルに焦点を当て、その軌跡を辿ります。
津賀一宏氏のプロフィールと経歴
津賀一宏氏のプロフィールや経歴についてご紹介していきます。
名前 | 津賀一宏(つが かずひろ) |
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生年月日 | 1956年11月14日 |
出身地 | 大阪府 |
居住地 | - |
最終学歴 | 大阪大学基礎工学部生物工学科卒業 米カリフォルニア大学サンタバーバラ校 コンピューターサイエンス学科修士課程修了 |
職業 | パナソニック株式会社取締役会長 一般社団法人日本経済団体連合会副会長 一般社団法人電子情報技術産業協会副会長 一般社団法人日本エレクトロニクスショー協会理事 公益財団法人パナソニック教育財団評議員 一般社団法人日本IR協議会評議員 国立大学法人大阪大学 経営協議会学外委員 |
趣味 | ドライブ・ゴルフ |
津賀一宏氏は、1956年に大阪府で生まれました。大阪大学基礎工学部生物工学科を卒業後、1979年に松下電器産業株式会社(現在のパナソニックホールディングス株式会社)に入社しました。
2001年にマルチメディア開発センター所長、続いてAVC社 AVネットワーク事業グループ AVCモバイル・サーバ開発センター所長を経験し、2004年に同社役員、2008年に同社常務役員とオートモーティブシステムズ社の社長に就任。
2011年には同社専務役員とAVCネットワークス社の社長に就任。2012年にパナソニック株式会社代表取締役社長に就任しました。2021年からは同社の取締役会長となり、現在も活躍を続けています。
パナソニックの歴史と津賀氏が直面した課題
まずは、パナソニックホールディングス株式会社の基本情報を見ていきましょう。
会社名 | パナソニック ホールディングス株式会社 |
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所在地 | 【本社】 〒571-8501 大阪府門真市大字門真1006番地 |
設立 | 1935年12月15日 |
創業 | 1918年3月7日 |
代表取締役社長 | 楠見 雄規 |
代表取締役会長 | 津賀 一宏 |
従業員数 | 228,420名(連結) |
グループ会社数 | 512社(親会社および連結子会社) |
パナソニック株式会社は大正時代に創業した歴史ある企業です。創業時は「松下電気器具製作所」として創業しましたが、1935年に改組し、「松下電器産業株式会社」となりました。会社名が「パナソニック株式会社」に変更されたのは2008年のことです。
さらに、2022年度からは事業会社制となり、会社名が「パナソニック株式会社」から「パナソニック ホールディングス株式会社」に変更となりました。
日本国内では唯一の総合家電メーカーとしても知られている同社ですが、ホームエレベーターや電動アシスト自転車など家電以外にもトップシェアを誇るものが多くあります。現在、日本国内の電機業界では、日立・ソニーに続いて第3位の売上を誇る企業となっています。
津賀一宏氏が社長に就任した時代、パナソニックはとても厳しい経営状況となっていました。津賀氏は就任当初からあらゆる手を尽くしてキャッシュフローの創出に奔走したといいます。就任後、全事業の「見える化」を進め、社内の構造改革を進めました。
津賀一宏氏の経営理念と経営革新の取り組み
パナソニックの再生を託された津賀一宏氏。彼が掲げた経営理念と革新的な取り組みは、停滞していた巨大企業に新たな息吹を吹き込みました。
顧客視点の徹底、大胆な事業再編、そしてデジタル化への挑戦。これらの施策は、パナソニックを再び世界で競争力のある企業へと導く原動力となりました。津賀氏の経営哲学と、それに基づく具体的な取り組みを見ていきましょう。
顧客中心主義の徹底
津賀氏の経営理念の根幹には、「顧客中心主義」があります。彼は、パナソニックが長年培ってきた技術力を活かしつつも、それを顧客のニーズに合わせて最適化することの重要性を説きました。具体的には、以下の3つの施策を実施しています。
- 顧客フィードバックシステムの強化
- ユーザビリティテストの徹底
- アフターサービスの充実
まず、「本当にお客様が望んでいるものを提供できているか」を確実に知るため、顧客フィードバックシステムを強化し、製品開発の初期段階から顧客の声を取り入れる仕組みを構築しました。
また、製品の使いやすさを重視し、実際のユーザーによる評価を重視するユーザビリティテストの徹底や、アフターサービスを充実させて製品販売後のサポート体制を強化する動きも見せています。
これらの取り組みにより、徹底的に顧客に寄り添うことでパナソニック製品の顧客評価は着実に向上し、ブランドイメージの回復にも貢献しました。
事業ポートフォリオの再構築
津賀氏は、パナソニックの事業構造を根本から見直し、成長性と収益性を重視した事業ポートフォリオの再構築を行いました。とくに注目すべき点は、以下の3点と言えます。
- 不採算事業からの撤退
- 成長分野への積極投資
- M&Aの活用
まず、テレビ事業などの赤字部門を大胆に縮小・撤退させる決断を下しました。これは短期的には痛みを伴う選択でしたが、長期的な企業価値の向上には不可欠な施策でした。
同時に、津賀氏は将来性のある分野への積極的な投資を推進しました。特に注力したのが、車載電池や産業用ソリューションなどの成長分野です。これらの分野に経営資源を集中させることで、新たな収益の柱を育成することに成功しています。
さらに、M&Aを積極的に活用し、新たな技術やマーケットへの進出を図りました。その代表例が、半導体大手ザイリンクスの買収です。この戦略的な買収により、パナソニックは次世代技術の獲得と新市場への参入を一気に実現しました。
これらの施策を通じて、パナソニックの収益構造は大きく改善し、安定的な成長基盤を構築することに成功しています。津賀氏の先見性と決断力が、パナソニックの事業ポートフォリオを時代に即したものへと変革させたのです。
デジタルトランスフォーメーションの推進
津賀氏は、デジタル技術を活用した企業変革の重要性をいち早く認識し、全社的なデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しました。その取り組みは多岐にわたり、パナソニック全体の事業モデルを根本から変えつつあります。ここでも、彼が行った改革から注目すべきものを3点挙げます。
- IoT技術の活用
- AIの導入
- データ分析の強化
まず、IoT技術の活用に力を入れました。家電製品のスマート化を進め、コネクテッドホームの実現に注力しています。これにより、単なる製品販売から、継続的なサービス提供へとビジネスモデルを進化させています。
次に、AIの導入を積極的に進めました。製品開発や生産プロセスにAIを活用することで、効率化と品質向上を同時に実現しています。この取り組みは、パナソニックの競争力を大きく高めることにつながっています。
さらに、データ分析の強化にも取り組んでいます。顧客データの詳細な分析を通じて、ニーズの先取りと新サービスの創出を図っています。これにより、より付加価値の高い製品やサービスの開発が可能になりました。
これらのデジタルトランスフォーメーションへの取り組みにより、パナソニックは従来の製造業の枠を超え、デジタル時代に適応した企業へと変貌を遂げつつあります。津賀氏のビジョンと実行力が、パナソニックを新たな時代へと導いているのです。
津賀一宏氏のリーダーシップスタイルと成果
津賀一宏氏のリーダーシップスタイルは、パナソニックの企業文化を大きく変革し、目覚ましい成果を上げました。彼のリーダーシップの特徴と、それによってもたらされた具体的な成果を見ていきましょう。
オープンなコミュニケーションの促進
津賀氏は、オープンで直接的なコミュニケーションを重視しました。定期的な全社集会の開催により、経営陣と従業員の対話の機会を増やし、ビジョンの共有を図りました。
また、フラットな組織構造を推進し、意思決定の迅速化を実現しました。さらに、若手社員の意見を積極的に取り入れる文化を醸成し、イノベーションが生まれやすい環境を整備しました。
グローバル視点の強化
パナソニックのグローバル競争力を高めるため、津賀氏は国際的な視野を持つ人材の育成と登用に力を入れました。外国人幹部の積極採用や海外拠点の権限拡大を行い、世界各地の市場ニーズに適切に対応できる体制を整えました。
また、グローバル人材育成プログラムを拡充し、国際感覚を持つ次世代リーダーの育成に注力しました。これらの施策により、パナソニックの海外事業は着実に成長しています。
結果志向の経営
津賀氏は、明確な目標設定と厳格な進捗管理を通じて、結果を重視する経営スタイルを確立しました。KPIの徹底により、全社員が目標に向かって努力する体制を作り上げました。
また、成果主義の導入で社員のモチベーション向上を図り、迅速なPDCAサイクルの実施で環境変化に素早く対応できる体制を整えました。この結果志向の経営スタイルにより、パナソニックは2015年度に黒字転換を果たし、その後も安定的な成長を続けています。
まとめ
津賀一宏氏の経営革新とリーダーシップは、パナソニックを再び世界有数の電機メーカーへと押し上げました。顧客中心主義の徹底や事業ポートフォリオの再構築、デジタルトランスフォーメーションの推進により持続可能な成長基盤を確立した点は、特に大きな功績だと言えるのではないでしょうか。
また、オープンなコミュニケーションと多様性を重視するリーダーシップで、イノベーティブな企業文化を醸成。グローバル視点と結果志向の経営スタイルにより、国際競争力を強化し、業績の回復と成長を実現しています。
津賀氏の挑戦は、日本の製造業が直面する課題に対する一つの解答を示しています。伝統と革新のバランスを取りながら、グローバル競争を勝ち抜く術を体現した彼の経営手腕は、日本企業の可能性を世界に示す象徴的な事例となりました。